『横須賀歌麻呂のYARIMAN HUNTERほのぼの撮影日誌』vol.8
- 2018/06/14
- 03:06
11月22日 水曜日 曇りのち雨
撮影8日目。
この日は某駅前での撮影。
駅前にて朝のシーンから夜のシーンまで丸一日撮影する予定が夕方からあいにくの雨。
雨が降ってしまうと予定していた撮影スケジュールを消化することができず、また新たに撮影予定を組み直さなければならなくなり、その分予算も嵩んでしまうので行き当たりばったりの我々の低予算映画にとっては死活問題です。
しかしこればっかりはどうする事も出来ないので夕方以降の撮影を断念して撤収することに。
出演者もスタッフも過密スケジュールで疲れが溜まっていると思うのでむしろこれはみんなに休んでもらう為の恵みの雨だとポジティブに考えることにしよう。
この映画は、出演者もスタッフもほぼ手弁当のような条件で参加していただいており、皆さんの好意に支えられてなんとか成り立っている映画です。
慢性的にスタッフの人手が足りないので後輩芸人達に裏方の仕事も手伝ってもらってます。
本当に有難い限りです。
この日も後輩芸人の『ソシコ』が応援に駆けつけてくれました。
ソシコはこの日以前にもエキストラとして撮影に参加してくれて、この日は裏方の手伝いとして再び撮影に参加してくれました。
ソシコはとにかくよく喋ります。
好きな映画や漫画や小説の話を始めると猿のオナニーのように喋り続けます。
歴史や世界情勢や政治や社会問題などの話題に関しても意外と知識が豊富でとにかくどんなテーマだろうと首を突っ込んで喋りまくります。
相手に話す隙をほとんど与えずに自分の喋りたいことだけを余す事なく喋りまくります。
簡単に言うと、他人にとってはどうでもいいことを喋りたくて喋りたくてしょうがなくて抑えられない小学3年生みたいなおっさんです。
この日もソシコは絶好調!
現場に向かうロケ車のワゴンの車中でいきなり本領を発揮するソシコ。
首都高に興奮しまくるソシコ。
完全に遠足のテンションのソシコ。
走る車の窓から目に入ってきたものに次々と反応するソシコ。
埼玉の国道沿いにあった大型釣具店の存在意義に大いに疑問を呈するソシコ。
埼玉県内大型釣具店不要説を展開するソシコ。
平日の午前中に学校指定のジャージでファミレスに入っていく女子中学生らしき少女二人組を発見するソシコ。
今まさに不良の世界に足を踏み入れた決定的瞬間説を展開するソシコ。
学校指定ジャージ着用女子中学生コスプレをしている童顔熟女説を展開する俺。
ソシコのテンションに馴染めずに終始無言の主演女優の範田さん。
現場に到着してもソシコの勢いは止まらない。
歩道の端に設けた機材置き場の番を頼まれて話し相手を失ったソシコ。
飢えた狼のように獲物を探すソシコ。
出番待ちの後輩芸人セクシー川田を捕獲して、キン肉マン2世のオリジナルを凌ぐ魅力についてや餃子の王将社長射殺事件の真相についてなど無軌道に熱弁を振るいまくるソシコ。
雨で撮影が中止になり帰路につくロケ車の車中、気怠い空気が漂う中でもソシコの異常なハイテンションは一向に衰えを見せません。
小学1年生の時にものすごくモテていた話を始めるソシコ。
車内の人々は貝のように心を閉ざし無言でスマホを眺めている。
ロケ車の運転をしつつソシコの小1の頃モテてた話に鷹揚に相槌を打つタフガイな俺。
小学1年生の頃のソシコはそれはそれは愛くるしい男の子だったそうで、その愛くるしさのあまりに6年生の女子の間でソシコを自転車の後ろに乗せて家まで送っていくブームが巻き起こり、6年生の女子達がソシコを家まで送って行く権利を巡って毎日毎日争いを繰り広げていたそうです。
気が付くとソシコと俺以外は全員寝ていた。
ちょうど帰宅ラッシュにぶつかってしまいなかなか進まない幹線道路。
フロントガラスを叩く雨。滲んで乱反射しているテールランプの列。FMから流れるクラプトンの "Wonderful Tonight" とソシコの小1の頃にモテてた話のコラボレーション。
6年生が卒業するとソシコブームも過去のものとなった。
数年後、ソシコブームの頃に一番熱心にソシコを送りたがっていた女子にばったり出くわした。
セーラー服姿のその女子は、チラッと目があったあと、何も言わずにソシコの横を通り過ぎて行った。
「、、、ブサイクになってましたわ」
そう言ったソシコの瞳の中で、雨に滲んだ赤い灯火が揺れていた。
おそらくその女子は魅力的な少女へと成長を遂げていたのだろう。
虚空を見つめるソシコの目がそう物語っていた。
いや、考え過ぎかもしれない。
本当にブサイクだったかもしれないし、どちらでもなかったかもしれない。
ひとつだけ言えるのは、ソシコのオチは弱かった。
いや、恋の話にオチなんてない。
相変わらず渋滞は続いていた。
あの遠い日の少女もいつかどこかで『YARIMAN HUNTER』を観てくれるだろうか。
雨に滲んだ赤い灯火をぼんやりと眺めながらそんなことを考えていた。
ソシコ
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